美しい自然の風景につつまれた山あいの村、花谷村。
その村にはダムの計画が進んでいて、
やがて水の下に沈むことになる村の全ての家族を写真に残すことで
花谷村の美しさを伝えようとする一徹な写真屋。
旧式のカメラをかついで山道を行き、
一戸一戸訪ねて歩く村の写真館の主人の姿を描いたのが、
映画「村の写真集」である。
本県出身の立木義浩さんが写真監修をし、
映画の撮影も旧池田町、山城町、西祖谷山村などで行われたので、
ご覧になった方も多いのではないだろうか。

立木さんはこのとき撮った写真を後に写真集「里山の肖像」として発表している。
写真館の父と子の葛藤を中心に物語は進んでいくが、
この映画の本当の主人公は、その村に住み続けてきた住人たちであり、
そしてその周りに広がる美しい里山であることは、
写真集に付けられた名前からも分かる。

今、その里山が荒れ、背後の森林が荒廃しようとしている。
そのことに気付き、心を痛め、何とかしようと立ち上がった四国四県の人たちの集まり
「四国の森づくりフォーラム」が10月31日と11月1日、徳島で開かれた。

基調講演をお願いした立木義浩さんは、
世界中の美しい森や里、村、そして川や海の写真を見せてくれた。

「総(すべ)ては繋(つな)がっている。」と題して、
森のことを語れば川の話になり、川のことを語れば里、海の話となる。
すべては循環しつながっている、と話された。
何よりその美しい写真が、失われようとしているものの大切さを、
そして何にも替えがたいその魅力を私たちに語りかけてくるのであった。

さて、「コンクリートから人へ」を合言葉に
民主党政権は全国の100以上のダムの中止・見直しを打出している。
ダムに沈んでいく運命にあった、それぞれの村の人々の営みや美しい里山の風景。
写真集にではなく、実際の姿をこそ残すべきであろう。

森の保水力による緑のダム効果、
地球温暖化に対する二酸化炭素の吸収・固定機能、
さらには生物多様性を保つ働きなど、森の重要性はとても大きく、
数えあげればきりがないのである。
健全で美しい森を再生するための取組みは、
まちに住む私たちにとっても今や待ったなしとなっている。

「正義を振りかざすのではなく、楽しみながらやりませんか」。

立木義浩さんの講演は、会場に集まった300人近くの人たちの胸に響いた。
こんなに面白く意味のあることを、みんなでやらない手はないのである。
そう、みんなで楽しみながら。

建築家 野口政司   2009年 11月 4日(水) 徳島新聞夕刊 「ぞめき」より