「勝ってもかぶっても緒をしめよ」と言ったのは、
元世界チャンピオンのボクサー藤猛である。
日系3世で日本語が不自由だったので“かぶと”が“かぶっても”になってしまった。
ユニークな日本語と愛嬌のある性格で多くのファンから親しまれた。

さて、未曾有の大敗で政権から去ることになり、
明日辞任する麻生太郎首相も記憶に残る言葉をたくさん残している。

・「とてつもない金持ちに生まれた人間の苦しみなんて
普通の人にはわからんだろうな」(2008年9月24日 毎日新聞)

・「金がねえで結婚はしねえ方がええんで」
(2009年8月23日 東京で学生の質問に)

・「はっきり言って(医師は)社会的常識がかなり欠落している人が多い」
(2008年11月20日 全国知事会議)

・「たらたら飲んで、食べて、何もしない人(患者)の分の金(医療費)を
何で私が払うんだ」(2008年11月20日 経済財政諸問会議)

・(年収が)1億円あっても、さもしく1万2000円が欲しいという人もいるかもしれない」
(2008年12月6日 長崎県)

・「高齢者は働くことしか才能がない」「80歳過ぎて遊びを覚えても遅い」
(2009年7月25日 横浜市、衆院解散後初の地方遊説で)

また首相になる前からもびっくりするような発言の多い人であった。

・「下々の皆さん」(1979年 衆院選初出馬の地元飯塚市での街頭演説で)

・「東京で革新都政が誕生したのは婦人が美濃部スマイルに投票したのであって、
婦人に参政権を与えたのが最大の失敗だった」(1983年 高知)

麻生首相は、高祖父が大久保利通、祖父が吉田茂と、
日本の激動期に活躍した人の血を引いている。
吉田茂元首相は、たとえ戦争で負けても外交で勝てばよいと考え、
グッドルーザー(良き敗者)を演じ、負けっぷりのよさによって「敗者」としての
日本の成功を勝ち取っていった。
ここはお祖父さんを見習って、見事な敗者としてかぶとをぬぐというのはどうだろう。

・「昨年秋に衆院選をしていたら、こんなに負けていなかった」

・「総裁にだれも手を上げないんだったら、俺がもう一度やってもいいんだぜ」
(どちらも総選挙後)

この多弁な首相に、次の言葉を贈って最後としたい。

「勝っても敗れても口をしめよ」

建築家 野口政司   2009年 9月 15日(火) 徳島新聞夕刊 「ぞめき」より