小さな丸いつぼみが膨らんで、
まっ白に卯の花が垣根にこぼれると、
かすかに甘い香りがして足を止める。
柔らかな緑の滴る雑木林には
日がな一日小鳥が囀っている。
「卯の花の匂う垣根に・・・」。
佐々木信綱作詞の「夏は来ぬ」は
美しい日本の5月を織り成す
初夏の風物詩。

早苗植え渡す夏は来ぬ。
田の面に映る里山の風景を愛でる楽しみもある。
カエルが鳴き、田んぼ一面に水草が生え、
イトミミズが繁殖している田んぼはトロトロ層の土をつくり、
早苗は見る見る分桔(ぶんけつ)してたわわの稲を実らせる。
おいしい米を食べられることの幸せ。
3回続けて東北震災のことに触れたから、
今回は美しい季節のことだけを書こうと思ったけれど、
早苗を見ると変わり果てた田んぼと、
そこに立ち尽くす人々の姿が見えてしまう。
この幸せを分かち合いたい。
原発事故はますます深刻さを増している。

NHKテレビ ETV特集「ネットワ-クでつくる放射能汚染地図
~福島原発事故から2ヶ月」を見た。
原発事故の直後から、
放射線が飛び交う半径10キロ圏内に突入して
「放射能を測定して記録する、
その汚染マップを歴史に残す」とした
研究者、科学者たちによる記録である。
放射能が人々の夢を奪い、
人間の暮らしを根こそぎ奪った。
この間まで豊かな実りの中で
命がつながってきた大地、
そこに残された放射能の爪痕は
余りに大きいことを思い知らされる。
「夜暗くても、電気がなくても、原発はいらない、
どこに怒りをぶつけたらいいのか」。声は続く。
3万羽の鶏を飼っていた養鶏家
「もし明日餌が来なければ、こいつらは・・・。」
餌は来なかった、鶏たちは一羽残らず餓死した。
突然変異を来した遺伝子構造のような、
ねじれて色濃く染め上げられた放射能汚染の地図、
真実は隠せない、そのことを痛いほどに訴える内容だった。
幸せな私たちもまた、
生きている限りこの現実から逃れられないことを思った。
美しい季節が巡るためにも、
この現実に向き合わなければならないことを思った。
八木正江

里山の風景をつくる会 理事
地球温暖化を考える-市民アクション2011-徳島代表

2011年5月19日(木) 徳島新聞夕刊 「ぞめき」より