田中優  2005.07 合同出版
『戦争をやめさせ環境破壊をくいとめる新しい社会のつくり方』

また9.11が巡ってくる。

WTCビルが炎上する光景を現場で見たミュージシャンの坂本龍一さんは、
その年のうちに世界中の人たちのメッセージを集めて本をつくった。

『非戦』と名付けられたその本には、
アメリカ議会でブッシュ大統領の武力行使にただ一人反対した
バーバラ・リー議員の演説や
マーティン・ルーサー・キング牧師の「暴力の究極の弱点は
破壊しようとする当のものを生み出してしまう悪循環でしかないことだ」
という文章などが載せられている。

日本人では、アフガニスタンへの米軍による空爆で
「邦人退去勧告」が出され、退去を余儀なくされた
ペシャワール会の中村哲さんの「私たちは帰ってきます」という文章、
そしてテロを廃絶するためには、
テロを生み出すその背景を見なければならないと主張する
田中優さんの「忘れてはいけない」などが載せられている。

その田中優さんの講演会がこの六日、徳島市内であった。
私も参加している「地球温暖化を考える―市民アクション2008―徳島」が主催した
『田中優が語る「地球温暖化を食い止める新しい社会のつくり方」』という催しである。

“日本のゴア”と呼ばれる田中優さんは、
ストップ温暖化はこの十年が勝負と定年を十年残し、
この春公務員を辞め、全国を駆け巡っている。

日本の郵貯や大手銀行のお金が、
市民の意思とは無関係にアメリカの戦争の資金につかわれていることを指摘し、
お金に意思をもたせることの大切さを強調する。

環境や平和活動に取り組むNPOやNGOなどに
優先的に融資する未来バンク事業組合を手がける一方、
坂本龍一さんやMr.チルドレンの桜井和寿さんが設立した
ap bankの応援もしている。

田中さんのやり方は独特だ。
直接政治活動をするのが“タテ”、市民活動を“ヨコ”とした場合、
これまでとは全く別な仕組みを考え、
現実に新たなモデルをつくる方法を“ナナメ”と考え、
いろんな可能性を求めていくのだ。

例えば、市民バンク以外にも、自然素材による“天然住宅の家”を手がけたり、
木材の有効利用のためにペレットストーブを紹介したりしている。

そして石油エネルギーから自然エネルギーに切り替わることで、
各地の小さな単位が自立し、
社会のシステムが根本的に変わっていくことを思い描いている。

私たちにもできることがいっぱいあるんだ。
会場を埋めた人たちの目が輝いていたのが印象的である。

忘れられない講演会となった。


坂本龍一 『非戦』  2001.12.20 幻冬舎

建築家 野口政司   2008年 9月10日(水) 徳島新聞夕刊 「ぞめき」より