それは草に覆われた秘密基地から始まった。

少年たちは放課後になると、自分たちがつくり上げた秘密基地に集まる。大人が入ってこられない迷路のような遊び場所。誰のものか分からない草ぼうぼうの空き地がそこいらじゅうにあったころ。

東京オリンピック、大阪万博・・・日本の戦後の復興期、大人たちがその日の糧を求めて懸命に働く中、子供たちはひそかに自分たちの世界をつくり上げ、たくましく生き抜いてきた。

「ビートルズ」「ラブアンドピース」「平凡パンチ」「正義の味方」、そんな1960年代のアイテムをいっぱい詰め込んで描かれたのが、浦沢直樹氏の漫画『20世紀少年』だ。

地球滅亡を企てる謎のカリスマが、小学校の目立たなかった同級生。そして彼から地球を守ろうと集まるのもかつての同級生たち、というのが面白い。

1995年3月20日のオウム真理教による地下鉄サリン事件、2001年9月11日のワールドトレードセンターをはじめとするアメリカ同時多発テロ。それらを類推させる事件が次から次へと起こっていく。

それを予告したのが、秘密基地の中でつくられた「よげんの書」。すべてが子供の想像力の中から生まれたのだ。

そういえば、サティアンは「真理」という意味で、バラックの倉庫を模した迷路のような秘密基地であった。
そしてオサマ・ビンラディンが指導するアルカイダは、アラビア語で「座る場所」、つまり「拠点」であり「基地」を意味している。

麻原彰晃もビンラディンも、そしてブッシュ大統領もフセイン大統領も、かつてははな垂れ小僧の子供であった。一方は秘密基地をつくり、もう一方は帝国と宮殿をつくったのだ。

さて、現代の日本の子供たちはどこに秘密基地をつくるのだろうか。
時間も空間も大人たちに管理されているこの社会で。

彼らは、コンピューターの仮想空間の中に自分の居場所を求めるのではないだろうか。気の合ったものだけが入ることのできる秘密基地として。
果たして彼らが描く未来はどのような世界なのだろう。

21世紀の少年少女たちがもう育ち始めている。