Photo by HIROMU SORA

空(くう)を切り裂くようにホトトギスひと声、雑木の林を渡って行った。

ここしらさぎ台は、雑木林に隣接している宅地が多い。
芽吹きの春、緑滴る夏、紅葉する秋、冬木立。鳥が鳴き、四季が移ろう。
天突くばかりに育った広葉樹の林は、昔の里山を彷彿とさせるが・・・。
山ろくの畑地に家が建てられ、後ろに森があり、前には水田が広がる、
昔から見慣れてきた里山の風景、田園の風景だ。

里山は人里近くにある林や草地で人の関わりが欠かせない。
里山は暮らしに必要なすべての資源を擁していた。
建築木材をはじめ、薪、炭、食糧、薬草も。農耕地、放牧地となり、
里山に貯えられた水は里地を潤し里川に流れ、漁獲、生活水を確保した。
多くの動物が棲み、多様な生物の生息の場であった。

しかし現実には、化石燃料が主流となり、外材が巾をきかせ、
宅地開発が進み、食糧も飼料も輸入に頼り、里山は放置され減少した。
生産の場として暮らしを支え、生物の多様性にみちみちていた里山を、
私たちはいつの間にかお役ご免にしてしまった。
昔、昔、里山があったとさ、
おじいさんは芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行ったとさ・・・
の世界にしてしまった。
里山の価値を見失い、ふるさとの風景そのものであった里山は
いつしか省みられなくなった。

熱気溢れた先日の生物多様性セミナ-、
私は、生物多様性国家戦略(2007年閣議決定)の中に、
「里山イニシアチブ」という言葉を見つけ、おお!と思った。

私の属するNPO法人「里山の風景をつくる会」が、
活動の夢と未来を里山という言葉に託したのは8年前のことであった。
私たちの里山はどこにある?
里山のイメ-ジを言葉にし、絵に描き、熱く語り、ワ-クショップの紙面を埋め尽くした。
私たちは里山の風景を「守る」のではなく、
里山の風景を「つくる」と決意した日のことを思い起こし、
里山の大切さが、脚光を浴びつつある事に感慨を持つ。

里山との新しい関わりかたが求められている。
生物多様性が生み出す自然の恵みに気づき、
自然資源に依拠した循環型社会を再構築する時が来ている。

徳島での地域戦略を立てる暁に、
NPO「里山の風景をつくる会」は「里山イニシアチブ」の旗頭になりたいと願う。

2009年 6月 30日(火) 徳島新聞夕刊 「ぞめき」より
地球温暖化を考える-市民アクション2009-徳島代表  八木正江


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