ワークショップは、参加した人たちの思いが重なりあい、
るつぼの中で解けたあとに結晶のようなものができ上がる。
参加した者全員がそのことを実感できるのが、
何にも替えがたいワークショップの魅力だと思う。

9年前の今日、2000年1月23日、
吉野川第十堰の可動堰化の是非を問う住民投票が徳島市で行われた。
それは、投票率が50%を超えなければ、
開票せず焼却処分にしてしまうという条項が付いたものであった。

住民の意思を問うべきであると主張した市民たちは、
どうすれば50%以上の人が投票に行くか、ということをテーマに
ワークショップを開いた。いろいろなアイデアが出され、そして全てが実行に移された。
・ヒューマンチェーン(人の鎖)
― 長さ800mの第十堰を北岸から南岸までの人の鎖でつなぐ(500人参加)。
・セイクレッドラン
― 第十堰から市役所まで市内約30kmを
「住民投票イチニッサン」と投票を呼びかけながら走る(若者を中心に100人参加)。
・プラカード立ち
― 県庁前のかちどき橋で「住民投票一二三」や
「吉野川に一票を!」などのプラカードをかかげて立つ。
雪の中で立ちつくす姿は市民の感動を呼び、
やがて市内全域の辻々に広がっていった(参加者無数)。
・新聞全面意見広告
― 2000人近い個人と150グループによる賛同カンパで「吉野川へ一票を!」の
全面広告を出す(徳島新聞1月22日朝刊)。
・ピンポンローラー
― 市内9万戸全戸を回り、投票を呼びかける。(参加者無数)。
・送迎ボランティア 
― 市民ボランティアによる老人、体の不自由な人への投票所への送迎。

他にも様々なプランが出されたが、
こんなの本当にできるのと思われたもののきわめつけは「50%キャンペーン」。

徳島市内のお店が、投票率が50%を超えた場合は商品を
50%引きにするというもので、ラーメン屋さんからお豆腐屋さんに始まり、
生協にまでそのキャンペーンは広がっていった。

その結果、投票率55%、投票した人の90%が可動堰に反対であった。

吉野川への思いをこめた、市民の祈るような活動のうち、
どれか一つ欠けても50%は超えられなかったのではないだろうか。
そして、あの時自分が動いたからこそ住民投票が成立したのだ、と
参加したどの人もが思えるような、
そんな運動ができたからこそ成功したのではないかと今でも思っている。

熱い思いを形にするための優れたるつぼとしてのワークショップ。
そしてその過程を共有しあうことで、目的と手段が混然一体となる・・・。
ワークショップには無限の可能性が秘められていると思う。

建築家 野口政司   2009年 1月 23日(金) 徳島新聞夕刊 「ぞめき」より