秋がなかった。
うららの春もなく、
暑かった夏から突然肌寒の季節になってしまった。

そのうち四季折々の季語も忘れられて、
歳時記をひも解く楽しみもなくなってしまうかもしれない。
地球全体が何だか訳がわからなくなっているような。
ジョセフ・コンラッドの小説に「闇の奥」というのがある。
コンゴにおける植民地支配を描いた辛い内容で
結局途中放棄したのだが、その表題ばかりが忘れられない。
最近のニュ-スには、
闇の奥から不気味に立ち表われてくるものが多いからである。
去る9月7日、
NHKクロ-ズアップ現代で放映された「日本の森林が買われていく」は
そのひとつで衝撃だった。
日本の森林が外国の投資マネ-の対象として買われているというこの現象、
すでに2002年の頃からという。

日本の森林率68%はフィンランドについで高く、
その数字だけから見れば豊かな森の国だと思う。
安い外材に頼らないで、近くの山の木を使って家を建てよう!
とNPO活動を10年も続けていて、この動きをつゆ知らなかったとは。

日本人の勤勉性と従順性とを象徴しているといつも思うのだが、
戦後山という山に杉を植えた。
その人工林、今ちょうど伐り旬を迎えている。

けれど、右肩下がりに下落した杉の価格は法外に安く、
おまけに林業経営者の高齢化で木を切り出す労力がない。
どんなに安くてもいいから手放したいという
森林所有者の苦境に付け込まれての現象に違いない。
え、どこの県で?
例に出されていたのは北海道倶知安の山林だったが、
九州長崎の例も出ていて、
四国は? とどきどきして聞き耳を立てたが、
幸い「徳島」は出て来なかった。

学校や図書館や公民館など
公共の建物を木造にする動きが進んでいる愛媛県なのに、
やっぱり買占めの動きがあると言われていた。

こんなゆゆしき現実、
林野庁ではもちろんとっくに知っていて、
処置が取られていると信じたいが・・・

核をめぐる密約だって、軍需産業の存否だって、
やっと表面化しているTPP(環太平洋戦略連携協定)問題だって、
真実は深い闇の奥。

闇の奥に一筋の光を!これではまるで神頼みだと思いつつ、
やきもきと氣をもんでいる。
里山の風景をつくる会 理事
地球温暖化を考える-市民アクション2010-徳島代表  八木正江
2010年11月16日(火) 徳島新聞夕刊 「ぞめき」より