みやこうせい「ルーマニア民俗写真展」より

45年前、シベリア鉄道でモスクワに行き、
それからパリに向けて旅立ったみやこうせいさんは、
その途中、ルーマニアの国境の駅に降り立った。
そしてラテン系の血の騒ぐ、
あるいは奔流しざわめくルーマニアの人々に心から魅せられてしまった。

「住民の、そう、神がかりめいた親切さ、あたたかさに感じ入った。
人々の情に何度も涙した。
右も左も、一・二・三も分からない、極東からの旅人を人々は手あつくもてなし、
・・・別れる時にあの人たちははじめじんわり、やがてぽろぽろ涙するのである。」
(みやこうせい「人呼んで、世界の中心・・・」)

それからみやさんは、150回近くルーマニアを訪れ、
彼らの生活を写真に撮り、本につづり続けてきた。

二年前の夏、県立文学書道館で開かれた
「羊と樅(もみ)の木の歌 ― ルーマニア民俗写真展」を覚えておられる方もあろう。
エッセイストでフォトアーティストのみやこうせいさんの
ルーマニアへの思いを語る公演と写真展が開催された。

私は村の風景と人々の生活の姿に目を奪われた。
特にマラムレシュ地方の写真は、みやさんの言う「原ヨーロッパ」、
「最後の楽園」の姿を見事に写し撮っていたのであった。

昨年11月、ルーマニアの文化勲章を受けたみやこうせいさん。
お祝いのメッセージと
ルーマニアの音楽家を徳島に招いてコンサートを開くことを伝えたところ、
徳島の友人たちにも聴いて欲しいと頼まれたのであった。

ルーマニア出身のヴァイオリニストのユリウ・ベルトークさん、
そしてピアニストのミハイ・ウングレアヌさんら5人の音楽家たちのコンサートである。
ベルトークさんの奏でるルーマニアの秘曲「望郷のバラーデ」は、
みやさんが心を奪われたルーマニアの人々の魂を伝えてくれる。

他にも、生誕200年となるシューマンの「ピアノ五重奏曲」や
ベルトークさん作曲の「ヒロシマ」など、あまり聴くことのできない曲も演奏される。
徳島からは若手ピアニストの川内麻紀さんも参加してのコンサートである。

「ウルマー・カンマー・ソリステン2010」
4月18日(日)県教育会館大ホール、午後2時開演。

ベルトークさんの魂に響くヴァイオリンの音色。
そして交響曲のように豊かで色彩感あふれるウングレアヌさんのピアノ。

それは忘れることのできない出会いとなるかも知れません。
みやこうせいさんがふと足をおろしたルーマニアの大地との出会いのような・・・。

建築家 野口政司   2010年 4月 12日(月) 徳島新聞夕刊 「ぞめき」より